あなたなら

結婚する相手には、どうなんだろ。
相性は、そう悪くないとは思う。
仕立てのいいグレーのスーツをいつも颯爽と着こなしている。
前途有望な若者がいるんだが、君どうかね?と上司が顔を輝かせて行ってきた。
そしてその人の名刺を渡された。

わたしの上司は、本当にいい方だ。
バラ色の頬に銀髪まじりの豊かな白髪が西洋人のように上品だ。
何度か会社にいらした奥様も素晴らしい。
「いつも主人がお世話になっております」と、こちらが恐縮してしまうほど、丁寧にあいさつくださった。
そして「主人は人使いが荒いから、遠慮なく言ってやって頂戴ね、あなた」との言葉には、長年の賢夫人の貫録すら感じた。
あんな上品な夫婦になりたい。
わたしの結婚生活への憧れは高まった。
その上司から、じきじきの推薦だ。
そして、その推薦通りの申し分ないお相手だった。
スーツがこれほど似合う人って、日本にそうはいないだろう。
それに絶品の黒髪の持ち主でもある。
波打つ天然パーマ。
垂れた前髪をかきあげる仕草がたまらなくセクシー。
でも、自分の魅力を自覚していながらも、そんなことはおくびにも出さない。
ましてや仕事モードに入れば、完璧に没我の境地で全力投球。
その姿勢とルックスとのコントラストが、たまらない。
「どうだね、彼?先方も乗り気みたいだよ」と、上司が進捗を伝えてくる。
本当に人がいいのだ。
相手がこの人だったら、わたしの返事は一も二もなく決まってるのに。
でも、彼はどうなんだろう?あまりにデキすぎじゃないだろうか?完璧すぎなのだ。
でも、断る理由は見当たらない。
ああ、悩む自分がもどかしい。

運命

たまに打ち合わせで会う外部デザイナーさんは、打ち合わせの時も、一切仕事以外の話はせず表情ひとつ変えないので、私には怖くて冷血なイメージでした。
そう、私は彼が苦手でした。

担当者が変わって半年ほど合わずにいた時、信号待ちで偶然彼に会ったのです。
「お久しぶりです」とは言ったものの、なんだか気まずくて足早に立ち去ろうとした私に、「今度ご飯でもどうですか?」と意外な一言。
そういうこと言うキャラじゃないから、すごく驚きました。

後日、男女2人ずつで会うことになり、デザイナーさんが連れてきてくれたのが今の私の旦那様。

彼は一目見た瞬間に、こんなにお洒落な男性に会ったことがないと思ったほどセンスが良くて、私はもっと彼の事を知りたいと思ってしまいました。

あのとき、あの時間、あの場所でデザイナーさんに偶然会わなかったら、彼とは一生会ってなかったし、赤の他人としてお互い違う人生をおくったはず。

本当にデザイナーさんにも感謝しているし、運命ってあるんだなーって思っています。

「僕たちもそう思っているんだよ」と私の友人と結婚したデザイナーさんは言います。
そう、あの日出会って結ばれたのは、私たち夫婦だけじゃないのです。

あの日以来4人で会うことも増え、先に結婚した彼らには赤ちゃんが生まれ、これからは家族ぐるみで仲良くしていけそうです。

彼と出会ってから5年、夫婦になって1年が過ぎたけれど、自分の居場所を見つけたような感じがして、私は毎日とても幸せです。

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