柳の腕

私は彼が恐かった。
近寄られると歯の根が合わないほど怯えた。
職場だったし、彼は紳士だったしこれは妙な現象だ。
今にして思えば、わたしの恐怖の正体は単純だ。
三人称単数で生きてきた、人生の傍観者たる私を、彼なら簡単に暴いてしまうだろう。

それに見た目より私は存外につまらない。
でも、彼はどうやら私にあのお決まりの幻想を抱いてくれている様子。
競争だって始まったし。
この調子でうまくやれば、めでたく彼とゴールインだ。
異性が私に抱く幻想とは、ざっとこんなもの。
素直で従順で優しくて、思いやり深くって良妻賢母、間違いなし。
美人すぎない清楚さも、グッド。
温かい家庭を築き、空気のような穏やかな存在になり、自分より早く死ぬ夫を手厚く看取る。
若さは褪せ、容姿も衰え、でも親切と優しさを無料配布する品のいい人生。
これぞ日本女子の統計上の最頻値。
ですが私は言いたい。
これが虚無でなくって何が虚無なんです?。
でも、その反面私は心の底から彼に愛されたかった。
ふたりきりになって、彼の首に柳のように絡まり顔を埋め蟻一匹通れないほど固く強く彼の肩にしがみつくのだ。
文脈だけで行為者を現してしまう、主語抜きの日本語でもって、私は彼に強引に愛されたかった。
これまでの辛く過酷な生育や、満たされなかった甘えや不安一切合切を受け止めて欲しかった。
それができる男性って実は滅多にいない。
多くの男性が、最初は、か弱く愛しい存在を庇護する役割に恍惚となるだろう。
でも断言してもいい。
それは決して長続きはしない。
土台無理だから。
それに途方もないその先の辿り着く果ては?。
日本女子の統計の最頻値、英語の主語 “I” では、目指す値打ちゼロ。
ならばこの頑丈な自分でぶっちぎった方が賢明だ。
賢明なはずだった。

失った横顔

彼がわたしを乗っける車は外車だった。
ドイツの高級車。
アウトバーンからジャパンマネーにより強奪された。
左ハンドルだ。
だから彼はいつもわたしの左横顔を見ることになった。
彼はうっとりと視線を注ぐ。

彼に会ってから気づいた。
私は左顔の方が母そっくりで、整っている。
そうして右は父そっくりで、結構いびつだ。
でも、私は自分の右横顔の方をこそ愛している。
車に乗り込みしばらくすると、彼は私の左手に手を伸ばし、握りしめる。
「会いたかったよ」と。
正直な私は、「わたしも」とは言わない。
彼は左手でハンドルを握り、右手をわたしの手から腕へと滑らせていく。
そうして肩先を優しく掴む。
ハンドルは片手で握ったまま。
そして肩から腕へとふたたび手の平を下へと滑らせる。
でも今度の最終地点は手先じゃない。
彼の湿っぽい手が、私の腕の横側、左側の膨らみへと逸れてくる。
わたしの優しい円やかさ。
彼が会いたかったのは、私じゃない。
この円やかさだ。
わたしはされるがままになっている。
頭が徐々にぼやけてくる。
官能と侮辱がマーブル状となって頭をグルグルと渦巻く。
クーラーが清潔な冷気を吹き出して、ひんやり心地いい。
高速道路についた車は料金所で止まった。
人目を感じた彼は、私からいったん手を放す。
でも高速に入ってしまえば、人目なんてないも同然。
恐いから運転に集中してほしいと、わたしは彼に告げる。
彼は優しく寛大な笑みを浮かべ、両手でハンドルを握る。
フロントガラスからは暮れゆく神戸の街がよく見渡せた。
この街はとても瀟洒に造られている。
なのに、裏の路地をひょいと曲がれば、猥雑さがすぐさまにも顔を出すのだ。

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