オンナ武士の情け

「日記にいつも君のことばっか書いてんだよね」あの言葉は、真っ赤なウソだったのか。
「日記なんて、古くさいかもしれないけど、ブログとかだったら他の人だって見る訳じゃん?ふたりだけの秘密とかってやっぱ日記だよ」。
あの言葉はなんだったの?

ふたりだけの秘密。
まあ、そう言えば聞こえはいいかもしれない。
そして自由恋愛の昨今に、女性だからこその不利なんて、もはや存在しない。
「娘をキズものにして!」と怒鳴り込む頑固オヤジはいにしえの遺物だし。

既婚者だったんだ。
社内恋愛なのに、どうして知らなかったんだろう。
こういう場合、派遣社員は損だ。
情報網もロクにないし、女性の正社員からは虐められて孤立してしまったし。

陸の孤島状態。
そんな私に優しくしてくれたのが、彼だった。
指輪もしてなかったし、たしか「結婚なんてまだ先の話だよね」って最初の方に言ってたような…。
そんな言葉を信じた私がバカだった。

明日で、派遣の契約期間は終了する。
珍しく、正社員のお局様が、女子トイレで私に近づいてきた。
「見かねて言うんだけど、彼って結婚してんのよ」。

初めて見る彼女の優しい顔。
弱者を労わる年長者の顔。
武士の情けをかける、もはやオッサンに近い顔。

「仕事、デキる人なんでしょ?ガンバって」
ポンと肩を叩いてくれた。

すぐにも彼に確認したい衝動が沸き起こった。
でも、オンナの直感で、お局が正しいのだろうとピンとくる。
女子トイレの個室でさめざめと泣き崩れてしまった。

オトコの非情さと、オンナの「武士の情け」。
どちらも得難い経験として、胸にしまっとこう。

«
»