うましか

こんなショック、初めてだ。
先輩が好きなのはわたしだと思っていた。
噂は本当だったんだ。
確かにあの子は、かわいい。
すべすべの真っ白いお肌が、ホテルの紺地の制服の上の純白のエプロンに照らされると、見とれてしまうくらい綺麗。

しかも性格も面倒見のいい穏やかな癒し系。
間違いなく、宴会サービスのマドンナだろう。
下手すると主役の花嫁さんをくってしまいかねない。
でも、面白みはゼロ。

話はつまんないわ、特技もないわ、ギャクのネタすらも持ってない。
あたしなんて、常に「ネタ帳」持ち歩いてるってのに。
先輩にも、バイトの疲れを癒してもらおうと、十八番の自虐ネタやらをせっせと披露したってのに、その努力はなにでしたかね?

わたしは決定的場面を今日、見てしまったのだ。
ふたりがすれ違う、その瞬間を。
あんなに気さくな先輩が、久々にシフトに入った彼女に一言も声をかけないのだ。

忙しくコップを運ぶ彼女の、そのひたむきな後ろ姿を見送っている先輩。
彼女が廊下を曲がってその姿が見えなくなってしまうまで、バカみたいに突っ立ってた先輩の後ろ姿。
そうか。
そうだったのか。

なんて、「うましか」(馬鹿)だったのだろう、私は。
先輩にとって私は妹、いや弟みたいなもんだったんだ。

バイトが終わったあと、きっとふたりは待ち合わせたんだろう。
ホテルの隣にある芝生の公園で、暮れなずむ夕暮れにふたりは佇んだんだろう。
華奢な背中とたくましい背中がふたつ、隣り合って並んだんだ。

ショック。
もう立ち直れないかも。

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