彼よりハンサム

驚愕した。
彼が昔、左手の薬指におもちゃの指輪をはめてくれたな、と思いだした翌朝。
なんと、アパートのエントランスに似たようなおもちゃの指輪が転がっていたのだ。
息の根が止まるかと思った。


まさかヤツは読心術やテレパシーの持ち主だった?。
立ちすくんでいると、一人の少女がこちらへ駆け寄ってきた。
そうして私の足元に転がるその指輪を拾って、にっこりと笑顔を向けた。

馬鹿だな、考えすぎちゃった。
急いで駅へと小走りで向かう。
今日は重要な会議だ。

といっても私は参加しないってか、そんな地位にはない。
しょせん私は英語屋さん。
でも、それだって必死の努力の成果。

同じ英単語でも専門用語と一般用語では、訳や解釈が大きく異なる。
これを読み間違うと書類の信ぴょう性、ひいてはプロジェクトの、ひいては会社の…って考えすぎだけど。
とにかく、やりがいある仕事だ。

ほら、見上げる春の青空が眩しい。
憧れていた東京のど真ん中。
高層のインテリジェントビルからは、東京の二文字を冠した電波塔が真ん前に見える。

そういえば、ここは彼の母校のある三田に近い。
行ってみようか。
でも、学校を見たところで何になる?。

それでも昼休み、やみくもに散策していると、それらしい名前の商店街に行き当たった。
でもどこにキャンパスが?。
早くしないと昼休みが終わってしまう。

これだから、東京の複雑さには嫌気がさすんだよねっと、その時ふいに後ろから肩をポンと叩かれた。
ああ、道案内ね。
制服姿ですが、昼休みですし私も不案内でしてね。

と不快感も露わに振り返る。
すると!姿かたちが彼そっくりの男が、おもちゃの指輪を手にして立っていた。
が、よく目を凝らすと彼ではない。

彼はこんなハンサムではない。
「落としましたよ」と、指輪を手渡してくる。
どう考えても不自然。

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