お前は知らない

漫画喫茶に入ってみた。
今ならソフトクリーム無料、につられたのもあるけど、ひとりの男と目があったのだ。
駅前にあるそのビルには、1500円カット専門店が入っていて、ちょっと前髪を切ってもらうのに、ちょくちょく利用している。

いつもはエレベーターで直行するのだけど、なかなか来ないから仕方なくエスカレーターに足を滑らせた。
駅のデッキフロアに直結してるこのビルの2階にはパチンコ屋さんが入っている。
ど派手な大音量の音楽。

すえた空気。
真剣だったり、気だるげな面持ちのオッサンらがずらりとパチンコ台に並ぶ。
ああ、うんざり。

なんか、見ただけで損した気分。
ふと向いのフロアに入っている漫画喫茶に目をやった。
これも初めて見る空間。

想像よりずっと健康なイメージ、そして清潔に見える。
パチンコ店が「動」の穴場なら、こちらは「静」の穴場か。
わたしは軽蔑も露わな表情になっていたに違いない。

漫画喫茶はガラス張りになっていて、ずらりと棚に並ぶ漫画がいかに豊富か、いかに世間のイメージより健全な場所かをアピールしている。
案外と入りやすそうだ。
足早に通り過ぎようとしたとき、ガラス越しにひとりの男と目があった。

ぼさぼさの髪。
いかにも「穴ぐら歴長いです」という風情の男だ。
同年代、20代前半だろうか。

わたしは容赦なく、冷たい上から目線を彼に注いだ。
すると、どうだろう。
男は不遜にも、わたしに薄ら笑いを返したのだ。

あたかも「可哀そうに、お前は知らないな」とでも言いたげに。
何を知らない?漫画の世界?それとも世間体を気にしなくていい自分?肩の力を抜いた人生?大嫌いな「友達」に存分に非友好的に振る舞える毎日?。
さまざまな想いが頭に渦巻く。

カットを終えたわたしは、その足で漫画喫茶へと向かった。
誰との何の出会いを期待してるのか、定かでないまま。

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