憧れは美容部員

これは酷い…。
「映画ファン・オフ会しましょ!ふたりで!」とメールがあったのだ。
リアルで会うのは初めて。
つまり本当の初対面。

なのに、お互い既に気心は知れている。
昔じゃあ、考えられなかったことだろう。

いや、文通とかが当てはまるのか。
待ち合わせ場所に現れた彼女は、予想外の地味さだった。
文章から受ける印象とは、真逆だ。

地味。
地味そのもの。
何度言っても言い足りない。

僕は華やかな女性が好きなのに。
タイプで言えば、化粧品の美容部員。
百貨店のカウンターで楚々とした物腰にフルメイクの女性。

あのコスメカウンターで、いわゆるタッチアップ(お化粧をしてもらう)してもらっている女性は、皆一応にうっとりしている。
そりゃあ、そうだろう。
一部の隙もない完璧な大人の女性が、自分に仕えてくれるのだ。

ああ、オンナになりたいよ。
一度でいいから、あんな美女たちにかしずかれる体験をしてみたい。
彼女たちは、声音も洗練されている。
「人目に晒される」毎日なのだ。

なのに、他人の顔を綺麗にするのが日々の生業ときている。
美しい!僕は勝手に目の前の彼女を、そんなタイプだと信じ込んでいた。
だって、彼女の文章には、いつも派手で感傷的な文句がちりばめられていたのだ。
好きな映画や俳優・女優評をする彼女の筆は冴えわたってもいた。

可愛そうな僕。
こうなったら、彼女の話を聞くより先に、しゃべりまくって、こっちのペースに持っていくしかない。
そうして、彼女が嫌気をさして中座とか退座とか、とにかく早く切り上げられるよう、最善の努力をするしかない。

「好きな監督っている?」この僕の質問に、彼女はニキビ跡の残る顔をひねらせた。
本気で聴いてる訳じゃねえよ。
こう言いたい気持ちを呑み込み、返事を待たずに監督論をぶちまける。
みるみる彼女の顔付きが怪訝に曇る。
そうだ。
それでいい。
だが、案外と彼女は人がいいのか、なかなか帰らない。
こうして、僕の夜はふけていった。

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