ブランド

私は自分にブランド価値があるなど、今日の今日まで思ってもみなかった。
顔だってまあ、不細工でない程度。
学歴だって地方の三流短大、しかも夜学しかも遊び過ぎて一年留年。

それに家も貧乏。

だから、高学歴大手企業研究員の夫が、私にブランド力を認めて結婚したとは夢にも思わなかった。
むしろ逆だと周囲は言った。

けれど、そうだったのだ。
彼は女としての私より、そのブランド力を何としても手に入れたかったのだ。
彼と出会ったのは、ある研究所。

その研究所は、国と企業が科学の英知を結集するべく共同出資し設立運営する、聖なる科学の殿堂だった。
彼は企業からの出向で、私は派遣社員。
私の所属はロボットを研究する新設の研究室。

その研究所は、中でも花形だった。
勤務にも慣れた頃、研究所に通う学生さんの仲人により、今の夫と知り合い結婚した。
私はついに玉の輿に乗れた、と思った。

が、彼にも、いや彼こそに利があったのだ。
ほどなく彼は出向から呼び戻され、元の所属部署に配属となり関東へと帰った。
かの殿堂であの花形分野の花形研究所で秘書をしていた女性を伴って。

彼は会社でばったり会った先輩や同僚やらに、聞かれるだろう。
「結婚したんだ?」と。
そうして出会いの経緯を述べる。

それだけでいい。
あとはブランドのヒストリーが物語ってくれる。
今にして知った。
あの研究所は本当に名高い。

直属だった所長が美人キャスター相手にロボットの未来像を、普段通りに淡々と語る姿をTVで見かけた。
世界を変える天才50名だかに、権威ある科学雑誌でランクインされた人もいた。
存じ上げなかったとはいえ、禿をあざ笑い、すみませんでした所長。

そしてこのブランドはバッグとは違い、常についてまわる。
素朴で自然科学系の彼がブランド好きとは、わたしも不覚だったものだ。

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