愛しの君

短大時代、初めての彼氏ができた。
とにかく、大人しかった高校時代のキャラを脱ぎ去って経験を積もう。
見られる存在から、見る存在へと脱皮を図るのだ。

相手は誰でもよかった。
彼は島根出身の専門学校生で、同級生だ。

わたしから告白し、彼が同情から受けてくれたらしい。

確かいつも複数人で会った。
ダブルデートとか、そういうの。
次第に彼は頻繁に電話してくるようになった。

「いま何しているの?」とか今度いつ会う?とか、そういうの。
「で、この電話の要件ってなに?」と聞くと、またも前述のごとし繰り言を繰り返す。
わたしだってヒマじゃない。

夜学だったから昼間はバイト、そして夜は学校。
それに時間ができたら美しいフランス文学の世界に没頭したりと、やるべきことはいっぱいあった。
週末、やつから電話がよくかかる。

ある時やつは言う。
実家の島根から干物を送ってきたから取りに来ない?と。
その時、わたしの心はパリのアパルトマンで暁を待っていたというのに。

そんな彼をもてあまし、私は友人に相談した。
用もないのに電話してきて、うるさいと。
すると友人は言った。

気になるからやん!好きやねんて!可愛いと思われてるんちゃうの?会ったりぃや~、と。
わたしはそれを告げるのが女性にとってどんなに難しいことか、既に知っていた。
あの子あんたが好きなんちゃう?って。

こんな単純な一言なのに、女性の口から、殊に友達に発せるのは至難の業。
その男の子とはあっさりフェイドアウトしてしまったけど、友人への愛は一層深まった。
ああ、どうして私達は同性だったんだろう?と彼女へのディープな愛は密やかに深まるばかり。
しかも彼女は人気者だから、私は彼女の永遠のone of themなのだ。

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